NOTE~哲学的断章 <11>
白鳥静香著
文明が進歩するということは、
職業が分化するということです。
逆に言えば、
歴史をさかのぼるほど、
職業があまり分化していないということにほかなりません。
ひとつの職業がいくつもの機能を同時に担っていたという
ことです。
その代表が宗教です。
現代でこそ、宗教は職業として魂の領域のみを担っていますが、
古代においては、
それは魂を扱うとともに、
道徳や法律、
政治や裁判の機能から、
学問や学校、
あるいは医療や芸術など多くの機能を担っていました。
担っていたというより、
職業が分化していなかったのです。
現代、職業の分化、社会的機能の分化が進み、
宗教が多くの機能を担うことから解放されたことによって、
(たとえば、倫理学が発達した現在、
宗教は、道徳や倫理的機能を担うということからさえ解放されて
いるでしょう。)
現在、宗教は存続のひとつの危機に直面しているでしょう。
ですが、
この職業の分化ということをきちんと自覚して時代に
対応してゆくなら、
宗教はより純化され、
新しい生命を得て、
現代社会に欠かすことのできない機能を担ってゆくはずです。
私はその機能のひとつは、
存在に意味や尊厳を与えるということではないかと思うのです。
存在の意味や尊厳こそは、
神秘的なもの、
つまり科学や理性からは絶対に出てこない結論であるからです。